熱帯雨林の微環境(マイクロハビタット)図鑑 【木・岩】


動植物にとって、水は常に背景にある支配因子。

この前提で見ると、熱帯雨林の微環境はその基盤が水をどう集め、逃がし、保持するかで状況が変わる。更に、地形や樹冠の構造といった大きな骨格の影響と、時間と偶然が折り重なり、状況はより複雑に無数に生まれる。

物理的な三次元の基盤に時間と偶然の要素を足した視点で状況を見ると脳みそがスッキリするね。

特に雨林内で時間の影響を見やすいのが落下枝や倒木周辺(サイクルが速い)。丸太→朽木→腐木→腐植と変化する過程を観察・考察するのは面白い。

岩盤や転石では、表面の排水が速く乾きやすい反面、苔マットの形成や堆積物、周辺環境の違いで状況反転が起こり、風化侵食でクラックや窪みができると、また違った条件が成立する。岩の変化は年単位〜十年単位で進むため、いったん生まれた微環境は長く持続しやすい——ここは倒木系と時間スケールに違いがある。

こうした「時間軸の概念」を設計に入れたパリダリウムならリアルさが一段上がるのではなかろうか。



倒木・岩上の基盤が影響する微環境



倒木の上の苗床(ナースログ)


浮いた倒木、遅れて進むナースログ

湿潤な森の倒木だが、材はまだ硬く樹皮も残り、分解は初期段階にある。
岩に引っかかって地面から少し浮いているため、土壌側の分解者や過湿の影響を受けにくく、朽ちはゆっくり進む。
その代わり、樹幹や地表から少し離れた場所で繁栄する種が定着しやすい足場になっている。(現時点では)
苔マットが育つほど水膜が増え、発芽床・着生床としての機能が高まっていき、やがて落下して地面側の別の環境へ切り替わっていく。

偶然が生んだ、長持ちする微環境の一場面。



浮いた倒木後期、新ステージへ移行

岩に引っかかったまま少し浮いているが、樹皮は失われ、辺材は崩れて材全体が柔らかい後期分解の段階に入っている。
支持は心材のみが自重を支える柱のように残り、内部はスポンジ化が進む。苔や腐植が水膜を抱えやすくなり、生物相は「硬い木の表面」から「湿った有機マット」へ置き換わっていく。
いずれ支持が崩れて地面に落ち、次は地表の過湿と土壌分解者の影響を強く受ける別ステージへ切り替わる。



倒木の分解ステージ・生物相の違い

手前は苔マットと腐植化が進んだ倒木で、水を抱え込む柔らかい基盤として小型草本の着生床の機能が強い。奥は比較的新しい倒木で材がまだ締まり、樹皮や硬い表面が残るため、微生物相や定着できる種の顔ぶれが異なる。
同じ場所でも、朽ちの段階が違うだけで保水・通気・栄養の出方が変わり、成立する微環境が並走する。
複数の時間が重なって森に様々な更新帯を生み出している。



倒木が層になり、時間が堆積する

三方を急斜面に囲まれた倒木の溜まり場で、新旧さまざまな分解ステージのナースログが重なっている。
手前は樹皮が失われ分解が進行し、奥は樹皮形を保ちながらもスポンジ化して苔マットが厚く発達する。
さらにその下には、かつての倒木が腐植化して残り、踏めば抜けるほどの粉状になって良質な土壌を作っていた。
倒木が世代交代しながら足場と影・水分環境を更新し続け、結果として着生・地生が混じる植生の多様性が一点に凝縮される。



斜面に倒れた集積ログ、上下で切り替わる微環境

毎日雨が降る準高地の斜面で、倒木が水と腐植の受け皿になっている。
右上から腐植堆積物が集まって上部は湿った有機マット化し、左下側は倒木が壁となって別の植生帯を守る。
倒木表面は形を保ったままスポンジ化が進み、斜めの姿勢と相まって半着生の小型草本が発芽・定着しやすい足場になる。
上部(堆積・保水)と下部(遮蔽・排水)の境界が読み取りやすい、斜面ログの典型例。



微高所・落ち葉に埋もれない避難所

倒木が作った一段高い足場で、小型草本が落ち葉の圧力から相対的に守られる微生息域が生まれる
落ち葉の多い林床では小さな株は簡単に埋もれて不利だが、微高所では堆積が起こりにくく生存に必要な光と空間が残りやすい。
その結果、わずかな高低差だけで「埋もれる地面」と「生き残れる足場」の分布境界が現れる。
小型種は倒木の段差そのものを資源に変えて、林床の微環境で生存している。



多年苔玉・季節で層が増える倒木

乾季と雨季の乾湿差が大きい環境で、乾季には苔マット全体が乾いて茶色く沈み、雨季に入ると一気に再生する。この反復で苔が何層にも重なり、倒木表面は苔玉のような立体的マットへ変化していく。倒木の保水性が、その繁栄を季節をまたいで支えている。
ここではキダチゴケが優占し、苔の層が水膜を抱え込むことで内部の材はスポンジ状に軟化したまま保たれる。引っ張ると苔だけでなくスポンジ化した材ごと剥がれるほど一体化しており、倒木に強く依存したコケの微生息域になっている。



倒木終末期、痕跡だけが残る床

かつて倒木だった基盤が最終分解段階に入り、形を失いながら地面と同化し、苔マットと腐植の名残だけが残る。倒木由来の有機マットが微高所と保水性を作り、特定の着生/半着生的な植物が成立する微環境になっている。中央のAbrodictyum plumaと思われる個体は、落葉が厚く堆積する帯では見られなかったため、倒木の完全分解とともにこの場の条件が消えると、同時に姿を消す可能性が高い。
森を歩くと、ナースログは「丸太 → 朽木 → 腐木 → 腐植 → 土」へと遷移し、その終末期もまた一つの微環境として観察できる。



露岩・岩盤上・オーバーハング(乾湿)


乾湿変動に耐える岩盤面の点在植生

乾いた岩盤の割れ目や礫が露出した硬質基盤上に成立する微環境。

保水性は低いが、凹凸や小孔に溜まる微量の水分と、わずかな堆積有機物が定着点となる。根は浅く表層に広がり、乾湿の変動に耐える小型個体が点在的に成立する一方、水分量が増える条件では同種でも大型個体が現れる。

一般に過酷で競合は少ないが、体サイズと環境条件の釣り合いが分布と成立を左右する。



岩棚直下に形成される半遮蔽湿潤帯
垂直岩盤直下に位置し、直接の降雨は遮られる一方、上部からの滴下水と表面流が集まる地点。
基盤は薄い土砂と礫が混じり、乾き切らないが、厚い土層ほどの保水・緩衝性はなく、着生/半着生的な生活形が成立しやすい。
湿度は高いが日射は弱く、岩盤面と林床の境界として多様な小型植生が成立する。




樹冠下小河川の通年湿潤パッチ
樹冠に覆われた比較的流量のある小河川に面し、直射と乾燥風が弱い場所の岩盤。
直接の飛沫は当たらないが、河道からの高湿度と岩内部・表面の滲出/毛管水で乾季でも濡れが維持される。薄い付着物(藻類・微細な堆積有機物)が岩肌に形成され、実生や小型草本が高密度に点在し、特定の種にとって最適な微環境が保たれる。
乾湿変動が小さく、河川縁の安定湿潤帯として、林床よりも湿り気に依存する種の避難場所になりやすい。




脆弱岩壁の滲出性湿潤帯
岩盤が連続する壁状地形で、似た環境が帯状に広がる林床境界。
ここの直下は高木・中木が密に茂り、樹冠による遮光と蒸散起源の湿潤化が加わり、開放空間でも高湿度が維持される。さらに岩壁内部からの水が層理面(+節理)を通じて常時滲出し、表面が持続的に湿潤化する区画では、局所的に植生被度が高まる基盤は脆弱な岩質で、微小な荷重でも破断・剥離しやすく、表層は崩落と再露出を繰り返す。安定した土層は形成されにくいが、薄い苔と微細堆積物が局所的な定着点となり、高湿度依存の小型植物がパッチ状に成立する。



巨大石灰岩の陰面・乾性ポケット群落
森内の凹凸の激しい大岩、低光量で表面水分も乏しい陰面で、岩棚・孔・隙間だけが生存空間として機能している。平滑面は乾きやすく定着が難しい一方、凹所は落葉・微粒土・苔被覆を捕捉して微土壌を作り、根が張れる定着ポケットになる。
水は常時供給されず、結露・毛管水・短時間の濡れに依存するため、植物は小型で点在〜パッチ状に集積し、分布が凹凸の形状に強く拘束される。
その結果、同じ岩体でも反対側の緑の面とは種組成が入れ替わり、微小地形×光×水分の差がそのまま植生の境界として現れる。



斜面礫岩のしっとり岩面定着パッチ
森の斜面上に点在する硬質な大岩の表面で、直接濡れるほどではないが、樹冠下の高湿度と夜間の結露で常にしっとりした水分状態が維持される。
岩面は薄い苔被覆と微細堆積物が乗る程度で土層は薄く、これらが水分と溶存養分を保持する薄層基質として機能する。
乾湿変動は林床より小さい一方、養分供給は乏しいため、小型で耐乾性のある個体が点在的に成立しやすい。硬質基盤ゆえ崩壊によるリセットは少なく、微環境は比較的安定して長期に維持される。



岩盤上の根がつくる擬似段差の分布境界
一見岩盤の段差に見えるが、実際には露出した木根がマイクロリッジとなり、堆積物と水分の分布を分断して植生境界を作っている。
根の上側は岩面の傾斜が強く、落葉・微粒土が滑落しやすいため、微土壌が形成されにくく乾きやすい。
根の下側は根が堰として機能し、細粒堆積物と苔マットが溜まって薄い基質が維持され、岩盤着生種・半着生種が棚状に成立する。
さらに下方の暗い影部では光量が限界を下回り、水分条件が残っても植生が途切れる。



谷底の冷湿トラップが作る腐木型苔マット
ここは林床から急に5 mほど落ち込む小さな谷底で、風が抜けにくく冷湿な空気が溜まる湿度トラップになり、乾季でも乾きにくい。底部の岩面には苔マットと落葉が混在してスポンジ状の保水層(有機マット)が形成され、普段は腐木上で見られるAbrodictyum plumaが岩上でも群生している。つまり基盤が岩でも、常時湿潤+有機マットの蓄積が成立すると、腐木と同等の疑似腐木基質として機能しているのだろう。この谷底は、基質の材質そのものよりも微気候(低照度・高湿度・乾燥風の遮断)が分布を規定する主要因になっている。



雨陰・湿潤通風が選別する単優占コケ岩盤
斜面の岩盤上部が迫り出し、厚い樹冠も重なって雨滴の直撃が局所的に弱まる一報、湿潤な空気が流れ込みやすい暗所の特殊地点。表面は常時流水で濡れるのではなく、霧状の湿り・結露+毛管水によって水分が供給されるため、雨滴依存性の低いコケが優位となる。
通常は他種と混生するが、ここでは雨滴攪乱が少ない/低照度/薄い基質という条件が狭く成立し、他の植物の侵入・更新が抑えられて単優占が維持されている。つまり「他種が成立しにくい条件域」と「このコケが成立できる条件域」が重なる選別帯として、競争圧の低い微環境が成立している。



河畔オーバーハングの雨陰・散乱光モザイク
硬質な大岩のオーバーハング面で雨滴の直撃が少なく、表面水は乏しいが、浅い川沿いの高湿度と結露でしっとり感が維持される岩面。対岸は高木密度が薄くやや開けるため、林内より散乱光が入り、同じ雨陰でも光環境がわずかに上振れする。その結果、前項と同種のコケが面を広く被覆しつつ、そのマット内部に茶色い葉をもつ希少なコケシノブが混生可能な微小ニッチが成立している。雨滴攪乱の弱さは共通でも、光量・通風・湿度の微差が他種の侵入/混生として可視化される好例。




雨陰勾配が生む希少種の入れ替わり帯
ここも雨陰だが、前項より雨滴の到達頻度が高く、基盤面の濡れ方が一段階雨寄りにシフトした移行域。


この条件下では前項で面を支配していたコケは成立せず、代わって、普段は腐木表面で多く見つかる青白い葉をもつ別の希少種の侵入が進む。茶色い葉の種は葉の状態からみて衰退過程にあるように見える。さらに周囲では樹木の成長・枯死による樹冠ギャップの更新、微小な土砂移動などが重なり、光量・滴下・基質厚の微変動が累積して置換圧を強めている。つまり、環境変動に伴う雨滴攪乱の勾配に沿って種組成が連続的に変化する遷移フロントの相が可視化されている。
同じ雨影でも、雨粒頻度+周辺環境の微変動という少数パラメータの変動が、共存→置換へと群落の準安定状態を動かすことを示す一場面。



次回は何に注目しようか。バットレスか落葉帯とかかな。


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