熱帯雨林の微環境(マイクロハビタット)図鑑 【水】


地面が気になり始めました。

これまで行った場所の写真を見返して特徴別に記録してみます。 熱帯雨林の大規模地形の広大さを体で感じることも十分面白くて、脳に良さそうですが、逆に視点を極端に小さくしてマニアックに観察する事も健康に良いだろうということで。

微細な環境差を探してその情報をコレクションする試みです。 

熱帯雨林は、数メートル・数十センチ単位で環境が切り替わる場面が多いです。 同じ林床でも「湿潤/乾燥」「土壌/岩盤/腐木」「明るい/暗い」「風が抜ける/停滞する」が少し変わるだけで、成立する植物相がガラッと入れ替わる。これが微生息域・微環境(マイクロハビタット)の世界です。 パリダリウムやテラリウムの構造設計時にも役立ちそうな概念ではなかろうか。 

まずは”水”に関わる微環境を要素別に記録します。



水が強く影響する微環境



渓流沿い(リパリアン林床)


根トラップ+コケ安定面+洗い場

水際(下端)は流れで基盤がリセットされる“洗い場”で、定着は難しい更新帯。
左下の砂礫は流速が落ちた時にできる堆積面で、次の増水で動きやすい短命ステージ。
右のコケ斜面は濡れが維持される安定面で、微小植物の足場が増える。
中央の太い根が壁兼トラップとなり、落ち葉や泥を捕まえて微土壌を育てます。



湿潤テラスのコケ岩壁

コケに覆われた岩面は長時間湿るが、直撃で洗われにくいため、スポンジ状の基盤が成立します。
礫岩の凹凸に水と微細な堆積物が止まり、土がなくても小型植物の足場が点々と生まれる。
右側の落ち葉だまりは有機物が集積するポケットで、栄養は多いが埋没・低酸素にもなりやすい。
湿潤・堆積・定着が同居する、蛇行した渓流沿いでよくある形。



渓流の淵+砂州

渓流の淵は流れが緩み、細砂が沈んで“砂州(堆積パッチ)”が育つ場所です。
雨季の増水で形が変わりやすく、植物は定着しにくい=更新が強いゾーン。
対岸の岩・根元は水位変動の直撃を受けつつも、引っかかりに有機物が溜まりやすい。
「洗われる面」と「溜まる面」が数mの距離で並ぶ、典型的なリパリアン微環境。



薄い水膜+苔マットの「濡れて乾く」岩盤パッチ

乾季でも岩盤表面に薄い水膜が残り、苔・藻膜が“スポンジ基盤”として機能している微環境。
短時間直射が入り、同じ岩盤上で乾湿の振れ幅が大きい。
流量の少ない時期は直撃を受けにくい分、微細堆積物が薄く溜まり、栄養確保ができる足場で、ここでは強固に活着出来る種が雨季の水没時も生存できる。
岩盤は見た目から 砂岩〜シルト岩系っぽい。



浅瀬の流路+僅かな高低差の植生帯

川幅2m・水深数cmの浅瀬で、流れが洗う面と流れ過ぎない面が隣り合う典型的リパリアン微環境。
中央の流水面はあまり堆積できない短命ステージで、増水が来ると最初に更新されやすい。
周縁の草本は流速が落ちる縁・微高所に集まり、定着できるラインが見える。
岩盤は淡色で割れ目が多く、砂岩〜泥質岩(シルト岩)系の平たい面でけっこうつるつる。



局所的な深み+岩の割れ目活着+水没/半陸のモザイク

乾季前半の浅い流れの中に、局所的に水深約10cmまで深くなる深みポケットがあり、中央右のホマは完全に水没した状態で岩の割れ目に根を張って活着しています。水流は右→左方向で割れ目や微凹地が「流されない定着点」になって、水没個体と半陸個体が数cmで並ぶモザイクを作る。
一方、中央左奥は陸地化して苔マットが成立し、その上にホマが生える湿潤陸上パッチにもなっている。



浅瀬の速い流れ+岩際の“セーフゾーン”

浅くても流速がある区間では、底面は常に洗われるため、砂礫や落ち葉が定着しにくい更新帯。
一方、岸際の岩や段差の陰は流れが弱まり、コケマットと活着ホマが生き残れる「セーフゾーン」となり、
水際の明暗(サンフレック)で水温・乾湿の変動が起き、同じ数十cmでも成立する植生が切り替わる。

砂岩が侵食で出来た水路で増水時に集まった転石が多く、立体的な微環境が構築されている。



静水の淵+倒木+湿潤コア

流れがほぼ止まる深み(淵)で、湿度が高く保たれるリパリアン林床の湿潤コア。
岸の植生は増水時の水位変動を受けつつも、平常時でも乾きにくいので、同じ群落が安定して維持されやすい。
倒木は流木トラップになって落ち葉・枝・細かな堆積物を集め、周囲に微土壌のパッチを作る。
「動く水」ではなく「溜まる水」が強く影響し、水位変動と堆積で維持されている微環境です。



砂岩の露出帯と堆積帯が向かい合って並ぶ構造

左岸は砂岩が露出して常に洗われやすく、薄い基質でも生存できる岩盤活着シダのエリア。
右岸は砂岩上に腐植・苔の遺骸・枝が溜まって小さな土壌が育ち、若い樹木など岩盤活着性ではない植物が入り込む堆積エリア。
中央の淵は流れが緩く静水が維持され、増水時の水位変動が岸の境界を更新し続ける湿潤コアです。
同じ場所でも増水時の流速差で「洗われて露出する面」と「溜まって土化する面」が並び、植生がはっきり二極化している状況。



湾曲部+高低差が作る植生の明暗

手前から奥へ短い距離で90度曲がる地点。

転石が川幅を細く区切り、速い流れ・よどみ・砂礫の溜まりが数mの中に同居する微環境。
全体の濡れは維持されるが右側は増水時でも耐えれる苔のみが定着し、左側の僅かに高い位置では小型草本が定着。右奥落ち葉帯の地面が低くなっていることから増水時の流速を想像すると水位変動時の流速の違いと僅かな高低差が要因と思われる分布の境界が見える微環境。



根の迷路+斜面のリター堆積「陸化しかけた水際」
根が網目状に張り、落ち葉や枝を捕まえて“ミニ土壌”を育てる天然のトラップとなる。
斜面上部はリターが厚く堆積して排水が確保され、若木や林床植物が入り込める陸化パッチ。
下部の砂礫面は水位変動で洗われやすく、根の陰だけが安定して残る=定着の境界がはっきり出る。
水際の「溜まる/流れる」の差を、根系がさらに細かく分割している場所です。



陸地付近での撹乱で土壌内の活性化
小滝の落ち口は飛沫と流速で常に攪乱され、岩盤上は苔や藻膜が張り付く濡れ続ける面になります。
滝下の淵は流れが緩み、細砂〜小礫が沈んで透明度と酸素濃度の高い堆積パッチが形成されやすい。
この条件で「耐水流・耐飛沫」の種と「堆積基盤を好む」種が混生するように分布する。



水際+浅い止水+オーバーハング上の3世界

岩盤上の水からの距離が分布の境界線。

手前の岩盤活着性のシダは僅かな増水ですぐに濡れる位置で群生を形成。中央は微細な堆積物が水中から半水中に特化したUtriculariaのマイクロハビタットとなっている。この種は陸上や樹上では全く見つからなかったので渓流特化形かも。奥のオーバーハングの上は枯葉などが浅く積もり比較的水分量も少なく見え、その環境に適応した草本が生存できる環境を作っている。数mの範囲内に異なる微環境が連続している分かりやすい例。



飛沫帯(滝・急流のしぶきゾーン)


滝裏〜オーバーハング下の飛沫帯(濡れ勾配のモザイク)
落水のしぶきが広く散り、岩肌は常時湿潤で、オーバーハングの直撃域(中央)/飛沫域(左)/準乾燥域(右)の勾配がはっきり出る。
水筋の当たるラインには苔・薄い土砂が定着し、点在する微土壌を手掛かりにスキスマが群落を形成。
わずかな地形差(段差・凹み・落下物)で水分保持が変わり、数mの中に多様な微環境が連続している。



岩盤の棚状クレバス・飛沫帯+薄い滲み出し

上の写真のもっと左下の位置。

岩盤の水平な割れ目に常時しぶきが当たり、葉面が濡れたままの高湿・低温(蒸発冷却)環境が維持される地点。
根はクラックの微土壌と薄いバイオフィルムを足掛かりに発芽し、定着に成功した個体が割れ目に沿って平行に分布している様子。

更に増水時の淘汰圧にも耐えた個体のみがその場での繁栄を許される“岩盤固定型”のニッチ。



高湿度+飛沫+周期的冠水の島状ハビタット
渦流で常に霧状の水がかかり、岩上は高湿・高酸素で、細粒砂が溜まりにくい洗われ続ける地点。
岩上の小さな凹凸が定着点になりブセ群落・苔マットがスポンジ状に形成され、微小空間を常に新しい水(間欠的な水流)が通過する耐冠水性の草本が島状に定着。
増水時は一時的に水没しても、ブセはかなり強固に活着していて、簡単には流されない。

水流耐性の強い小型Bucephalandraの独壇場になりやすいスポット。



大瀑布高所・滝裏の風送飛沫帯
滝の裏側でも高所は通風が強く、常湿〜やや乾き気味だが、風向きが変わる瞬間にだけ飛沫ミストが面状に届く“間欠湿潤”の環境。
苔・根マットが岩や枝の微小凹凸に微土壌を作り、乾湿の波が繰り返されるため、乾燥耐性のある尾根性植物と、ミスト依存の湿性植物が同居する特殊環境。
飛沫が直撃する縁は短時間で水分が補給されすぐ乾く一方、少し奥は空気が滞留し湿っている時間が長い。数十cmの距離で“湿性〜尾根性”がグラデーション状に切り替わる。



大瀑布最下部・谷底型の常時飛沫帯
100m規模の岩盤壁に囲まれて地形全体が滝壺のようになっているエリアの一角。

飛沫が谷全体に滞留して常時高湿+低温(蒸発冷却)になりやすい。
岩盤の層理面・クレバスには薄い堆積物が形成され、そこが苔・シダ・岩盤活着草本の足場となってモザイク状に群落が並ぶ。
水が走るラインは常に洗われて栄養が薄い一方、溝や棚の内側は落葉や微粒子が溜まり、適応した種が点在するように繁栄する。飛沫直撃域/滲み出し域/準乾燥域が光量の影響も受けて複雑な微環境が形成される。



落下水が霧化するミストシャワー帯
高所からの細い落下水が途中で空中分散して霧状になり、岩壁にミストシャワーのように広く降り注ぐ飛沫帯。
中央の迫り出した岩塊は風が通る場所で乾燥耐性のある岩盤着生シダのテリトリーになり、岩塊周縁部の下では微細な水滴が連続供給される微環境が形成され、ミニセラジネラマットが発達している。
水滴は面全体を均一に濡らす一方、凸部は風で乾きやすく、凹部は滴が溜まりやすく、更に地点毎の水の停滞時間の差で植生の発達度合いも変化している。同じ壁面でも“常湿〜高湿”が微地形で切り替わる。



大谷壁高所(開放崖縁+飛沫帯の風切りミスト)
谷幅500m規模の大空間に面した崖縁に位置し、滝前は視界が抜けるため通風が非常に強く、湿度は常時高いというより風向きで飛沫が届く間欠湿潤の環境。
落下水が岩棚に当たって飛沫化し、風で周囲が濡れされる。草本は直撃域を避け、岩棚に沿って優占分布する一方、少し外れると風と日射で急速に乾き、尾根性の草本・低木が混在する。
同じ岩盤面でも、棚・クラック・微小ポケットだけが湿性のコアとなり、乾湿の勾配が数mスケールでモザイク状に切り替わる。



狭隘な岩盤行き止まりの高湿閉鎖型ミスト空間
直径5mほどの袋状地形で風が抜けにくく、滝の飛沫が空間内に滞留して常時高湿+微細水滴の霧が充満する飛沫チャンバー状の微環境。
光量は低い一方、岩面は濡れた状態が長く続くため、クラックや微小棚の薄い堆積物を頼りに湿性岩盤活着種が優占しやすい。
水が直撃する筋は洗われて基質が安定しにくいが、少し外れた壁面は薄い水膜が保たれて定着しやすく、耐陰性植物が数十cmの距離で点在する。



完全ミスト化する湿潤シャワー林床最下部壁面・非流水型の飛沫帯
幅広で流量の少ない落下水が途中で全て霧化し、滝壺や水流を作らずに面状のミスト雨として林床全体をびしょ濡れにする特殊な飛沫帯。
壁面は直撃する水筋がほぼ無く、強い洗掘が起きにくい代わりに、微細水滴が連続供給されて苔・シダのマットが厚く発達し、常時湿潤の基質が安定して維持される。
「ミストに支配された林床性の高湿ポケット」として機能し、耐陰・高湿性の着生/半着生植物が壁面を優占している。



大瀑布前の風送飛沫帯から岩塊原に間欠ミスト
ここの背後の巨大岩壁から落ちる滝水が風で撹乱され、一定のタイミングでだけ飛沫が飛んでくる間欠的なミスト供給の場所。
開けた岩塊原で日射と通風が強く、森林内より平均湿度は低いが、飛沫が当たる瞬間に葉面と基質が一気に濡れ、乾湿サイクルがはっきり出る。
大岩の陰・岩の隙間に堆積物が保持されやすく湿性植物の定着点になり、湿性〜乾燥耐性の草本が微妙な位置取りでモザイク状に混じり合う。数十cmの中でそれぞれが土壌水分の保持に寄与しながら混生する微環境。



湧水点・滲み出し斜面(弱弱Seep滝)


滲み出し壁・薄い水膜のマイクロハビタット
滝の直撃域ではないが、岩盤内部を通った水が層理面やクラックからじわじわ滲み出し、壁面に薄い水膜が長時間維持される湧水点(seep)の微環境。
雨以外に流水の衝撃が無いので洗掘は起きにくく、微細堆積物・藻類・バイオフィルムが棚状の面に定着して、根を下ろせる基質が形成される。
滲み出しの強いラインは常時湿潤、少し外れた面は半湿潤〜乾燥へと移行し、数十cmスケールで湿度勾配が切り替わるため、苔・小型シダ・岩盤活着性草本がパッチ状に並ぶ。



流れのない水・壁面を濡らす微小湧水
岩盤の層理面からじわじわ湧く水が、壁面を薄く濡らしながら点滴し、オーバーハング内部を濡らし続ける場所。
直射は遮られ、冷えた湿気が溜まりやすく、乾湿の振れ幅が小さい安定した陰湿環境。
岩上の細い堆積物の有無を境界に、小型草本、実生が帯状に定着している。
流れはほぼ無いが、常時の給水が続いてきたことを示すように、手前の岩盤には水滴由来の侵食痕が残り、小さいながら長期安定型の微環境が成立している。



垂直岩盤の浸み出し面・弱い流水が固定される
ほぼ垂直の岩壁が長く連続する奥まった谷で、岩盤の一部だけに常時ごく弱い流水(浸み出し〜細い滴下流)が乗るポイント。
水は薄い膜として岩肌を流れ、凹凸に泥状の微堆積物を残しながら耐えず更新され、苔や小型セラジネラなどが帯状に分布する。
同じ岩壁でも、流速・水膜の厚さ・滴下の当たり方・日射と通風の差が数m スケールで変わり、植生はパッチ状に入れ替わる。そのモザイクの中で、この壁の特定の位置にのみに超小型鮫肌Homaが自生していた。



川のない水浸し平地・瀑布上流の滞水パッチ
大瀑布の上流側にある平坦地で、明瞭な流路が見えないのに地表一帯が常に水浸しになっている場所。
雨後の表面流がシート状に広がって滞留しやすく、さらに浅い地下水(浸透流)が地表近くで湧き戻ることで、流れのない湿地化が起きている。
根株・倒木・落ち葉が小さな堰となり、微地形の凹凸に水溜りが点在し、局所的に泥状堆積と有機物が集積する。この流れの欠けた湿りが、川辺とは別の条件で高湿度を維持し、湿地適応の草本や実生の定着ポイントになっている。



一時流水帯(エフェメラルストリーム)


雨天だけ現れる流路・内陸斜面の一時水流
川や滝から離れた山腹でも、雨天時の表面流と浅い浸透流が集まり、斜面が川化する一時的な流路が存在する。
急斜面で水捌けも良く、晴天時は落ち葉と岩肌が露出した湿った林床だが、降雨のたびに水が走る。岩面は乾ききらず湿りが残り、周囲より高湿度の冷涼パッチを維持しやすい。
その結果、普段は川縁で見つかる種が、ここでは「雨で攪乱される湿潤斜面」という代替ニッチに定着している。



泥炭湿地(ピートスワンプ)


低地ジャングルのピートスワンプ
落葉と泥炭が堆積してできた浅い水溜りで、流れはほぼ無いが、腐植由来のタンニンで水がブラックウォーター化し、弱酸性・低栄養の環境になりやすい。
草本の葉群や倒木で水中まで三次元的に細かく区切られ、日射の入る温かい浅瀬と、深みの冷えた暗所がモザイク状に存在し、小型魚(ベタやナマズ)が隠れ家・産卵場所として利用している。
樹幹基部には苔・着生種が発達し、半水中〜陸域の境界が長く保たれ、両生的な生物相が濃くなる。
増水期には周囲の林床とつながって水域が拡大し、乾期には孤立して島状の黒水プールとして残る。

季節変動の強い多様性湿地ポケット。



消える流れ・林床に点在する微水路
ほぼ平地に見える緩斜面の林床に、細い水路状の水溜りが点在し、ゆっくり流れるのに途中で地中へ吸い込まれて下流の川へは直接繋がらない湿地環境。
浸透流が湧き戻り、別の地点で再び吸収される、この反復が「消える流れ」の連続をつくる。泥炭の堆積が進んだパッチでは黒水化し、鉱質寄りの基質や流入が新しい区間では透明度が高い。数mの距離で環境が切り替わる。
この浅水域は、ベタの溜まり場になり、林床内に小さな湿地ネットワークを形成している。







次回は、岩土光空気時間動物などにフォーカスして影響する微環境を探してみます。


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